コールセンターやコンタクトセンターには従業員が定着しにくく、慢性的な人材不足が経営者にとっての長年の課題です。
理由として挙げられるのは、顧客から厳しい言葉を投げかけられたりサービスや商品ごとの説明に追われたりなど、ストレスの溜まりやすい業務内容にあります。
オペレーターの離職率を低下させるには、従業員が労働を通して得られる体験の価値を向上させることが大切です。しかし、どのようにすれば従業員体験を向上させられるのでしょうか。
- 従業員体験はなぜ重要?
- どうすれば従業員体験を向上させられるのか?
- コールセンターの環境を改善したい
本記事では上記のようなことを思っている方に向け、目次以下、コールセンターにおける従業員体験の意味とそれを向上させる方法、従業員体験の重要性について紹介・解説します。
Contents
従業員体験とは?
従業員体験(Employee Experience)とは、会社の従業員が業務を通して得られるさまざまな体験のことです。
近年に人事分野で注目されるようになった概念であり、顧客満足度を向上させるために用いられるUX(User Experience:ユーザー体験価値)やCX(Customer Experience:顧客体験価値)の考え方を人事領域にも取り入れたものと言われています。
従業員体験とは、勤務でスキルが得られることだけではなく、日々の労働を通じて従業員が感じたこと・考えたことなどの心理的・感覚的な要素も含まれます。
従来の労働環境の改善と異なる点は、従業員が労働を通じて得られる幸福感ややりがい、職場に対する満足度を重視しているという点です。
従業員体験の根本にあるのは、「自社の従業員が満足して労働できる環境を用意できない会社が、顧客を喜ばせられるサービスを展開できるわけがない」という考え方です。
つまり、従業員体験とは「自社の従業員と顧客の双方が喜びを得られるようにしよう」という考え方や働き方だと言えます。
従業員体験が注目される理由
従業員体験が注目されるようになった背景には、人材の流動性が高まったことや労働力の減少、テレワークの普及などの事例があります。
人材の流動性が高まったこと
高度経済成長期以後の日本ではひとつの会社に定年まで勤める「終身雇用制度」が一般的であり、転職はあまり意識されていませんでした。
しかし時代を経るにつれ、企業の売上や規模よりも、自分のやりたいことを実現できるか・身に付けたいスキルを伸ばせるかといったことを重視するようになりました。
自分の考えや思い描く進路に合っていない場合は、別の企業や業種へ転職することも一般的になっていき、現代では雇用が流動的になっています。
しかし企業側は他社に転職してほしくなく、自社で長く働いてもらいたいという事情があります。現在ではインターネットで企業情報を誰でも簡単に閲覧できるため、従業員体験を向上させることで転職者が増えやすい状況を作るという理由もあります。
そのため、従業員体験を重視し、働きやすい環境を整備する必要性を感じる企業が増えているのです。
労働力の減少
コールセンターやコンタクトセンター、運送業、IT業界などさまざまな業種で人手不足が課題となっていることも企業が従業員体験を重視する理由のひとつです。
パーソル総合研究所と中央大学が共同で発表した「パーソル総合研究所・中央大学「労働市場の未来推計2030」によると、2030年には労働力が644万人も減少すると推計されています。
人手不足を解消するには、従業員の労働へのパフォーマンスを向上させる必要があり、そのために従業員体験を向上させる動きが進んでいるのです。
このように従業員体験をアップさせれば、離職率を低下させることができ、人手不足に陥りにくくなるのです。
テレワークが普及したこと
日本でテレワークが普及したことにより、以前にも増して各企業は従業員体験を重視するようになりました。その理由は自宅で柔軟性の高い勤務ができるようになったことです。
従来の従業員体験を向上させる取り組みは、オフィスに出社して勤務することを前提としたものだったため、福利厚生の充実などを実施してきました。
しかし、新型コロナウイルスの世界的大流行を機に社会に広まったテレワークは、その状況を一変させました。
テレワークでは福利厚生の充実や昇給による従業員体験の向上はできないため、会社が従業員それぞれに向き合い、「何を提供すれば従業員が働きやすくなるか?」を考える必要が出てきたのです。
例えば、テレワーク環境下でコールセンター業務を行う場合は、直接意思疎通をする機会が少なくなるため、上司の従業員へのフォローやメンタル面での管理などがより重視されます。
フォローやメンタル面の管理を徹底するためには、従業員がいつでもチャットツールで相談できるようにしたり、1on1ミーティングの機会を設けたりなどの取り組みが必要です。
そこから「チャットで相談しやすい環境が構築できているか」「ミーティングの頻度はどのくらいが最適か」など、従業員のことを考えてフォローの内容を設定していきます。
つまりテレワーク環境下では通常の勤務とは異なる環境でビジネスを進めるため、従業員のパフォーマンスを向上させるために、より従業員体験を重視する必要があるのです。
従業員体験を向上させる4つのメリット
従業員体験を向上させることには、主に以下の4つのメリットがあります。
- 従業員のやる気が上がる
- 離職率が下がる
- 従業員の生産性がアップする
- 企業の良い情報がネットに掲載される
従業員のやる気や満足度が上がる
従業員体験価値を向上させれば、従業員は日々の仕事にやりがいを持ち、仕事へのエンゲージメントが高まりやすくなります。
仕事の価値は従業員ごとに異なるため、仕事を通じた社会貢献や達成したい目標を叶えるために仕事に取り組んでいる人もいます。そのため、単に給料をアップするといった短絡的な方法ではなく、従業員ごとに親身になって対応をする必要があるでしょう。
離職率が低下する
従業員体験価値が向上すれば従業員は日々の仕事に満足し、業務に対するモチベーションも上がるため、離職率が低下します。
離職する理由はコールセンター業務の場合は、クレーム対応や覚える業務量の多さ・顧客からのカスタマーハラスメントなどが理由に挙げられます。しかし、辞める理由はこれらに限定されるわけではなく、従業員によって千差万別です。
それぞれの従業員と向き合い、体験価値を向上させる取り組みを進めることが重要なのです。例えば、クレーム対応や業務量の多さが課題であれば、機械音声によって顧客からの電話に自動対応できるボイスボットの導入も一つの手段です。
従業員の生産性が向上する
従業員体験価値を向上させると、労働生産性もアップします。従業員体験を上げる取り組みの中で、従業員が普段どのように業務を進めているかを確認し、改善が必要な点を明らかにするからです。
労働における問題点が改善されれば、従業員は今まで以上に仕事にやる気を出し、業務に対する満足度も向上することが期待できます。
具体的な事例を挙げると、Airbnbという企業では従業員体験向上を図る専門部署を設置し、デジタル環境の整備や社員食堂の運営などを実施しました。結果、2017年の売上約26億ドル(約2860億円)と比較して、2019年は約48億ドル(約5100億円)の売上を記録したのです。
従業員体験価値を重視すると、従業員の対応力や適応力も向上し、企業の売上も向上していくことが見込まれるのです。
企業イメージが向上する
従業員体験を向上させた企業は従業員にとって働きやすいところになるため、彼らがインターネット上で肯定的な情報を載せる可能性が高まります。
就職活動中の学生や転職者は、インターネット上の情報を参考にして就職セミナーへ行くため、従業員によるポジティブな情報は、企業に入社しようとする人の増加や離職者の減少へとつながっていくことが期待できます。
従業員体験を向上させる5つの方法
従業員体験を向上させるためのポイントとしては、主に以下の5つの方法があります。
- 従業員への理解を深める
- 従業員が経験する全てに目を向けて考える
- 改善後の取り組みを可視化する
- 施策実験を続ける
- 体験価値向上までの過程を重視する
従業員のことを深く理解する
最初に取り組む必要があることは、従業員体験が現状どのようなものであるかを把握することです。満足度調査やアンケートを用いる方法もありますが、ケースによってはそれが難しいこともあります。
例えば、入社前に従業員が感じていた企業へのイメージと入社後のイメージが異なっている場合や、従業員同士の人間関係などはアンケートでは収集が難しい情報です。
相手の抱える根本的な不満を理解するためには、地道な面談や対話を繰り返す必要があるのです。対話時は業務内容改善のために企業にサポートしてほしいことや、今後取り組んでみたい業務についてもヒアリングすることで、より効果的な取り組みができます。
視野を広く持って、全体を捉えながら考える
従業員体験価値を向上させるためには、彼らが経験するすべての事柄に目を向ける必要があります。業務や社員同士のコミュニケーションだけでなく、生い立ちや家族関係などのプライベートな領域も含め、従業員をきちんと理解・評価しようとすることが大切です。
従業員体験の向上のためには、組織全体を俯瞰して取り組む必要があるのです。
可視化できるものに落とし込む
従業員がやりたいことや行動目的を把握したとしても、それを可視化できなければ、従業員同士の理解促進や満足度向上の具体的な施策の実行が難しくなります。
従業員の求めていることや期待していることを可視化し、具体的な取り組みにつなげるためには、入社から退職までの従業員の行動や心理状況の変遷を描く「エンプロイージャーニーマップ」を作成しましょう。
エンプロイージャーニーマップは、従業員が企業に所属してから退職するまでの間に経験したことや、心理状態・モチベーションや感情などを可視化した図のことです。これを用いることで従業員体験を向上させる施策の決定・実行がしやすくなります。
少しずつ施策実験を繰り返す
従業員体験をアップさせるための施策を実行する際は、最初に小さなレベルでアプローチし、そこで成功した場合により大きなレベルでの実行に移行しましょう。
企業を良くするために何らかの取り組みをする場合、施策内容を細かく決定してから企業全体にアプローチするという方法をとることが多いですが、問題が発生してしまうと後戻りせざるを得ないこともあります。
それを防ぐためには、一部の部署に施策をアプローチし、そこで成功した場合に内容を改善してより大きな段階で施策を実行することが大切なのです。
プロセスを重視する
従業員体験の向上のためには、従業員が勤務においてどのような体験を経て、どのように技術を向上させていくかというプロセスを考えなければなりません。
従業員の立場に立って、社内での経験とそれによる技術向上のプロセスを重視することで、彼らの事情に応じた働きやすい環境を整備することが可能になるのです。
従業員体験価値を向上させるためには、「従業員視点」を心掛けることが重要なのです。
コールセンターの従業員体験を向上させる方法
従業員体験価値の向上は、コールセンターの離職率低下や生産性の向上などにもつながります。コールセンターの従業員体験を向上させる方法は、以下のとおりです。
電話以外の窓口を増やす
コールセンターに電話以外の対応窓口を増やすことで、従業員体験価値の向上が期待できます。
コールセンターにおける主な対応窓口は電話ですが、従業員が対応しなければならない場面が多く、入電が集中してしまえばされでけ従業員の負担も増えてしまいます。そのため、電話以外の対応窓口を増やすことでオペレーターの負担を軽減することが必要です。
例えば、企業WebサイトにAIを使った自動対話システムであるチャットボットや、よくある質問への回答をリスト形式で掲載するFAQなどを設置するなどの方法があります。
一次解決率を向上させる
コールセンターの一次解決率を向上させることも、従業員体験価値の向上につながります。一次解決率とは「1回の通話で解決できた顧客からの問い合わせの割合」です。
一次解決率が高いということは、それだけ別部署への転送や架電者への折り返しを伴わないため、オペレーターの負担を軽減でき、従業員体験価値の向上になるのです。
一次解決率をアップさせるには、顧客応対マニュアルの見直しや通話転送数の減少による業務負担軽減などの方法があります。
CRM(顧客管理)システムを導入する
コールセンターにCRM(Customer Relationship Management)を導入することも効果的な施策です。CRMは顧客情報やその対応内容をデータ化して蓄積・分析し、センター内で共有するシステムです。
CRMに蓄積されるデータには、顧客が架電した理由や問い合わせ内容・購入履歴なども含まれるため、これらを活用することで顧客の解決したい事柄を明確にでき、効率的かつ高品質な対応が可能になります。
結果、オペレーターの顧客対応時の負担を軽減することにもつながるのです。
FAQを充実させる
Webサイト内に設置するFAQコーナーを充実させることで、オペレーターの対応件数を減らすことができます。
顧客は自分で解決できない課題を抱えているからこそ、コールセンターに電話をかけてきます。そのため、顧客自身による課題解決を促進できれば、架電数が少なくなってオペレーターの負担が下がります。
また、後述のIVRやボイスボットの導入なども顧客の自己解決を促し、対応件数削減に効果的です。
IVRを導入する
IVR(Interactive Voice Response:自動音声応答システム)とは、コールセンターにかかってきた電話に自動音声が自動で応対するシステムのことです。
顧客の問い合わせ内容に応じて電話のプッシュボタンを操作してもらい、内容に応じた部署へと通話の振り分けを行うことが可能です。また、簡単な質問であれば自動音声で回答できるため、コールセンターへの架電数削減にも効果があります。
ただし、IVRは顧客に音声ガイダンスを最後まで聞いてもらい、電話を操作してもらう必要があります。そのため、質問への回答が得られるまで時間と手間がかかるという問題があり、顧客満足度の低下につながるリスクもゼロではありません。
ボイスボット(AI電話サービス)を導入する
ボイスボットはAIを使った電話の自動応答サービスのことです。
AIによって顧客の発話内容を認識して回答するため、電話口の相手に電話を操作してもらう必要がなく、回答をするまでの時間が短いことが特徴です。
初期設定時に対話シナリオを設定する必要はありますが、AIの学習機能によって顧客と会話を重ねるごとに精度がアップし、より自然な会話が可能になります。
問い合わせ内容によってはオペレーターに通話を転送せずに要件を解決できる上、受電だけでなく架電にも対応できるため、IVR以上にオペレーターの負担軽減に活用できます。
コールセンターにAIを導入する3つのメリット
コールセンターにボイスボットに代表される、AIを使った自動応答サービスを導入することには、以下のようなメリットがあります。
カスタマーサポート向上
ボイスボットやチャットボットを導入することで、顧客への対応率を向上させることができます。
従来の電話対応では、コールセンターに架電が集中した場合は対応しきれず、顧客を待たせてしまうことがありました。営業時間外に問い合わせや注文があった場合はそもそも対応ができずに、顧客が離れていってしまいます。
上記のようなケースがあれば、顧客は企業に対する信頼性を失ってしまい、そこの商品やサービスを購入しなくなる可能性も否定できません。
しかし、ボイスボットやチャットボットを導入していれば24時間対応ができるため、顧客側からの連絡にいつでも対応できます。
要件の内容によっては架電せずに顧客が問題を自己解決できるため、コールセンターに架電が集中する事態を回避しやすくなり、カスタマーサポートの質が向上するのです。
問い合わせ対応の工数削減
ボイスボットやチャットボットを導入することで、オペレーターの問い合わせ対応の工数を削減できます。
ボイスボットやチャットボットは、顧客からの問い合わせにAIが自動で対応してくれるため、オペレーターの電話対応件数が削減されます。顧客の住所や氏名などの情報を聞くこともできるため、オペレーターは個人情報の確認に手間取ることもありません。
また、チャットボットであれば、顧客が自らの手で個人情報を入力欄にテキストを打ち込んでくれるため、オペレーターが顧客情報を入力する手間が省けます。
問い合わせ数の向上
ボイスボットやチャットボットは、電話口での発話や簡単な操作でリアルタイムに企業側からの回答を得られるため、問い合わせ件数の増加にも貢献します。
電話やメール、SMSによる問い合わせに煩わしさを感じる顧客であっても、電話口で要件を伝えたり話し言葉や短文をチャットに打ち込んだりするだけであれば簡単なため、問い合わせ件数が増加するのです。
まとめ(従業員体験を向上する方法)
従業員体験の向上は、企業の生産性の向上や離職率低下につながります。
コールセンターで従業員体験をアップさせるためには、電話以外の窓口設置やWebサイト上のFAQの充実、ボイスボットやチャットボットの導入によるオペレーターの業務負担の軽減といった方法があります。
特にボイスボットは顧客への対応率の向上や問い合わせ時の工数削減など、数多くのメリットが得られるおすすめのシステムです。コールセンターの従業員体験価値向上を考えている方は、以下から資料をダウンロードし、導入を検討してはいかがでしょうか。